川崎重工業
Kawasaki Robotics GmbH/Kawasaki Robotics(UK) Ltd. 前社長
高木 登さん

私は1985年に神戸製鋼所に入社し、塗装ロボットの開発や塗装ラインの制御システム設計を担当するエンジニアとして勤務してきました。2000年、川崎重工業が神戸製鋼所の該当部門を合併した際に、私も同社に移ることになりました。

自動化と省力化を実現する産業用ロボット; 出典: © KWI

約10年前まで、主に自動車関係の塗装ロボットシステムを担当していたため、日系自動車メーカの生産ラインがある北米や東南アジア、ヨーロッパ各地へよく出張していました。場合によっては数ヵ月間滞在することもありましたが、本格的に国外に住んだのは今回のドイツが初めての経験になりました。

実はそれ以前にも、上司から海外駐在の打診は何度もありました。しかし英語に自信がなかったため、2、3年は拒否し続けたでしょうか……ついにしびれを切らした上司から“職命”が下り、デュッセルドルフに駐在することになったわけです。2013年の初めのことでした。

デュッセルドルフ; 出典: Pxhere CC0

私と妻が住んだのは、デュッセルドルフ近郊のメアブッシュという小さな町です。川崎重工業のグループ会社であるKawasaki Robotics GmbHはデュッセルドルフ西部のノイスというところに拠点を置いており、そこが私の勤務先でした。

デュッセルドルフ西部のノイスに位置するKawasaki Robotics GmbH; 出典: © KHI

私には子どもが3人いますが、彼らは皆デュッセルドルフには来ませんでした。長男はすでに働いていましたし、娘と次男は大学生でしたから、ドイツ赴任にそれほどのハードルはありませんでした。

ただ、妻はケアマネージャーとして働いていて、ポジションにも恵まれており、はじめは日本に残るべきか迷っていました。しかし、多くの友人たちが口を揃えてヨーロッパ滞在はとてもよい経験になると言ってくれました。その言葉に背中を押され、妻も私と一緒にドイツに滞在することを決断してくれたのです。

NRW州; 出典: Wikipedia CC BY-SA 4.0

赴任後は、私以上にドイツの生活を楽しんでいましたよ(笑)。なかでも、彼女の培った知識を日本人コミュニティのために役立てられたのは、とてもよい経験になったようです。

というのも、現在ドイツでも高齢化問題が起きており、在独邦人の高齢者も同様に増加しているにもかかわらず、外国人であることで公的なケアが受けられないでいるそうなのです。それに危機感を抱いた日本人グループが、日本人高齢者のためのケアシステムを構築しようとしています。そこで私の妻が、プレゼンテーションをするなどし、日本で経験した専門知識を彼らに伝えることができました。

Image; 出典: Wikipedia CC BY 2.0

私は、2014年にKawasaki Robotics GmbHの社長としてデュッセルドルフに赴任することになり、欧州全域とロシア、中東、アフリカ地域の拡販を指揮する立場になりました。赴任直後のKawasaki Robotics GmbHの従業員数は、3人の日本人を含む計28人でした。それから約5年が経ち、私の日本への帰任が決まったときには、4人の日本人を含む70人以上になり、オフィスも手狭になって2017年には新オフィスに移転もしました。従業員はほぼ全員ドイツ人で、日本人社員とのコミュニケーションは英語で行われています。

ドイツ人社員とともに; 出典: 高木登

外国に拠点を置く日本企業のトップとして頭を悩ませたのは、その“言葉の壁”でした。私自身にとっても、伝えたい内容を100%正確に英語で言うのはとても難しいこと。微妙なニュアンスを表現することができずに、従業員に自分の考えを正しく理解してもらえなかったこともありました。

2018年に会社の成長に伴って機構改変を行い、各部門のマネージャーたちに直接指示を出す形を改め、私のもとにドイツ人の副社長をおき、実務はその副社長によってなされる形に変更しました。そのことにより、私はその副社長と業務や戦略についてのより深いコミュニケーションが可能になりました。このスタイルは、日本人社長として会社全体をマネージメントするのをよりスムーズにしてくれました。

出典: © 高木登

私の赴任期間中に会社の規模を約2倍にすることができたわけですが、取った戦略は営業力の強化です。そのために従業員を増やし、各自の責任分野を見直しました。また、私自身も積極的に代理店と直接コンタクトする機会を増やし、コミュニケーションを密にしました。結果として売上げも利益も2.5倍にすることができました。

川崎重工業のロボットは、あらゆるアプリケーションに対応することができ、ラインナップやサポートサービスも十全です。しかし、さまざまな分野の企業のリクエストに応えるためにはエンジアリングサポートも必要で、その部分を強化し、さらに発展を目指そうというところでの帰任でした。

多様なプログラミングが可能な川崎重工のロボット; 出典: © KWI

ドイツの顧客に日本のロボットを提案するのは、正直なところ、そう簡単なことではありません。ヨーロッパでは、すでにヨーロッパの有名ロボットメーカーが大きくシェアを取っています。日本人が日本製を好きなように、やはりヨーロッパの人はヨーロッパ製を好みます。例え日本製品の高品質を認めていてもね。ヨーロッパのロボットメーカーの手が届かないところ、またまだ手を広げていないところで実績をつける……中国、東南アジアに誇るようなシェアをヨーロッパに広げるためには、その点が課題のひとつだと考えています。

高木 登 (タカギ ノボル)
1985年、神戸製鋼所入社。電動塗装ロボットの開発及び塗装ラインの制御システム設計を担当。2000年、川崎重工業株式会社に移り、ロボットビジネスセンターにて制御システム設計の責任者として従事。2010年にFAシステム部長に就任し、一般産業機械業界へ幅広くロボットシステムを提案・設計するエンジニア部門を統括。2014年1月にKawasaki Robotics GmbH及びKawasaki Robotics(UK) Ltd.のPresidentに就任し、欧州全域及びロシア、中東、アフリカ地域の拡販を指揮。2018年12月末帰任。

(後編に続く)

(Text von Maho Mizoguchi Stelz)