ああ、めんどくさい……と思わずため息。そう、アレが必要な日がまたしてもやってきたのです。

クリスマスやイースター、バースデーは、当然ドイツにおいても家族や親しい友人たちが集う特別な日。みなケーキを焼いたりプレゼントを買ったりと、準備に余念がありません。

出典: flickr/Raffijouredjian CC BY-NC 2.0

一方の私は、日本の家族とイースターはもちろん、ごく幼いころを除いてはクリスマスを祝うこともありませんでした。いまや互いの誕生日もうっかり忘れ、何日も経ってから「そういえばおめでとう」なんて短いメールのやり取りをする程度。それでよいと思っています。だから、こちらでパーティーなどに招待されれば喜んで参加していますが、心の底はイマイチ盛り上がらないまま……。

そんなちょっと億劫な気持ちに拍車をかけるのが、ことあるごとに親族の間で交わされるカルテ(Karte)、そう「メッセージカード」の類です。

出典: Pixabay/darkmoon1968 CC0

私はイベントやパーティーに熱心じゃないことに加え、年賀状も早々に断筆宣言してしまった筆不精者。もちろん、はるばる日本の友人から届く手紙や、旅先から送られる絵葉書などはうれしいものですが、行事のたびに義家族に(ときには親しい友人にも)向かって年に2回も3回もカードを書くのはけっこうキツイ。

ちょっと古風で、あたたかみがあって、お金もかからないときたら、ドイツ人(とくに高齢女性の?)好みだろうなあ、できれば素敵な文句を綴って喜ばせたいなあなんて、本当は思うのです。

出典: flickr/Genlab Frank CC BY-ND 2.0

ところが、です。ドイツ人の夫の書く文面や、受け取ったカードを見てみれば、「Alles Gute!(おめでとう、がんばって、元気で、などさまざまに使える文句)」「Herzlichen Glückwunsch!(心からおめでとう)」など、決まり文句が目立ちます。そういったカードを受け取ったその場で開いて読んで、「ハァン♡」と感謝の笑顔を浮かべるシーンはまるでホームドラマの再放送……というと言いすぎでしょうか。

周囲にも尋ねてみたところ、やはり形どおりというかなんというか、凝ったことを長々と書こうとする人は比較的少ない様子で、形式的という点においては、日本の年賀状とどっこいどっこい。おまけにどうしてか、個性的な筆跡(悪筆とも言う)の人が多く、スラスラ読めるようになるにはまだまだ修行が足りません。

受け取ったカードを“解読”しながら、「なんだ、これでいいなら、辞書を引き引きあんなに丁寧に書くことなかったな」なんて経験を何度かするうちに、私もすっかり定型のメッセージをしたためるようになってしまいました。

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「ああ~、やばい、カード買い忘れちゃった。あまってない?」などと夫があたふたするのも我が家ではよくある風景。パーティー直前にやっつけ気味に書く背中に向かって、これ幸いと「und Mahoって書いておいてね」と相乗りさせてもらうこともしばしば。う~ん、メッセージカードの存在意義って……?

ところで、みんな、もらったカードはどうしているのでしょうか。毎年のように義母や義姉から似たようなカードをもらうけれども、やっぱりゴミ箱には捨てにくい。引き出しのなかの「とりあえずボックス」が、そろそろぱんぱんなんですけど……。

溝口シュテルツ真帆

編集者、エッセイスト。2014年よりミュンヘン在住。自著に『ドイツ夫は牛丼屋の夢を見る』(講談社)。アンソロジー『うっとり、チョコレート』(河出書房新社)に参加。日独をつなぐ出版社、ほろば社(Mahoroba Verlag)主催。『ドイツで楽しむ日本の家ごはん』が好評発売中!twitterアカウントはこちら→@MMizoguchiStelz