引っ越しとなれば日本でもひと仕事ですが、私が昨年ドイツで引っ越しをしたときも、いろいろ勝手が違って、それは骨が折れました。

私の住むミュンヘンは近年住宅難で、条件にぴったり合う住居を見つけることから至難の業。夫とともに住宅情報サイトを半年近くも眺め続けた末、理想的な賃貸アパートに住んでいた友人夫婦が郊外に移ると聞き、友人から大家さんに話をつけてもらい、彼らの後に滑り込む形で契約成立。ほっとひと息。

出典: flickr/mari CC BY 2.0

一方旧アパートでは、不動産業者を通して退居の情報を出した途端、入居希望者が続出。まだ荷物をまとめないうちに、数日にわたって内見の日にちが決められました。

若いカップルに、アーティスト風の男性、妊娠した女性……ざっと60人以上が訪れたでしょうか。「住み心地はどうですか?」「通りに面しているけどうるさくない?」などの質問に(同行していた不動産業者のほうをちょっと気にしながら)答えるのも新鮮な体験でした。

出典: flickr/Achim Senft www.senft-b… CC BY-SA 3.0

さあ、引っ越し準備……となったら、忘れてはいけないのが「ペンキ塗り」。ドイツでは、基本的に賃貸住宅でも壁に釘穴を開けたり、好きな色に塗り替えたりと自由にカスタムしていい分、退去時にはきれいに原状回復させなくてはならないのです。「まだまだ真っ白だし、塗り直す必要なんてないんじゃない?」と言う私を無視して、夫はパテで釘穴を埋め、義兄と2日がかりで家中の壁をペンキ塗り。なんて面倒なんだと思ったものです。

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引っ越し当日には、「自力で家財一式を運ぶ」のが多数派。とはいえ、私たちの新しいアパートはエレベーターのない4階。大変な思いをした上、手伝ってくれる友人たちに気を遣って、軽食や飲み物などのお礼をふるまうのも面倒だよ?となんとか夫を説き伏せ、業者にお願いすることに。チップを含めて600€ほどがかかりましたが、屈強なポーランド人のふたりがやってきて、あっという間に荷物をすべて運んでくれ、業者を選んで正解だったね、が結論。

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そして、私にとってひとつどうしても謎だったのが、「キッチンごと」の引っ越し。ドイツでは、入居前にはキッチンはきれいに空っぽ。つまり引っ越しをする人は、コンロやシンク、棚や調理台もすべて取り外して新居へと運び入れるのです(もちろん、造り付けの物件もありますし、次の住人と交渉して残していくことも可能ですが)。当然、持ってきたものが新居のサイズに合わないから買い直し……ということが起こってくるわけなのですが(我が家も例に漏れず)、「不経済だ!」なんて声は挙がらないのです。あれ、ドイツ人って節約好きじゃなかったっけ?

ふうふう言いながら、仕事の合間に少しずつキッチンをDIYする夫を見ながら、「ドイツ七不思議……」とつぶやいたものでした(あとの6つは……まあまたの機会に)。

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と、なかなか(ほとんど夫が)大仕事だったドイツでの引っ越し。1年半以上が経ったいまでも、「Gott sei Dank!(やれやれ!)」と目を細める私たちなのでした。

溝口シュテルツ真帆

編集者、エッセイスト。2014年よりミュンヘン在住。自著に『ドイツ夫は牛丼屋の夢を見る』(講談社)。アンソロジー『うっとり、チョコレート』(河出書房新社)に参加。日独をつなぐ出版社、ほろば社(Mahoroba Verlag)主催。『ドイツで楽しむ日本の家ごはん』が好評発売中!twitterアカウントはこちら→@MMizoguchiStelz