サンドラの日独比較
Vol. 11 「不倫」を叩く日本、「新しい恋」を応援するドイツ

近頃、話題になっている芸能人や政治家の不倫。タブロイド的な感覚でそれらを眺めるのはなかなか楽しくもあるのですが(下世話でごめんなさい!)、やはりドイツの感覚でいうと、「不倫ごときで騒ぎ過ぎ」。これに尽きます。

タブロイド紙のみならず、比較的真面目な雑誌もこぞって不倫問題を取り上げたり、スキャンダルの結果、政治家が辞任に追い込まれたり、芸能人が仕事を降板せざるを得なかったり、というのは明らかにやり過ぎのように思います。

不倫がスッパ抜かれた後の世間の冷たい視線や批判は容赦なく、まさに日本中から総バッシングを受けている印象です。最近では、1)週刊誌が不倫スキャンダルをスッパ抜き、2)その後テレビで取り上げられ、3)最後はひたすらネットでバッシングを受ける、というのが、不倫スキャンダルの一つの流れとなってしまいました。

出典: flickr/Pierre Willscheck CC BY-NC 2.0

ドイツの場合、ビックリなのが、不倫なのに世間がむしろ「新しい恋」を応援しているフシがあること。かの元シュレーダー首相も政治家である4番目の妻と離婚調停中の身で新しい恋人がいるのですが、タブロイド紙は「シュレーダーは新しい恋を見つけた」(„Schröder findet neue Liebe“)という書き方をしています。ドイツでは離婚に踏み切り、不倫相手である「新しいパートナー」と結ばれる事も多い事から周りは応援ムードになるのかもしれません。

出典: Wikipedia BY-SA 3.0

大衆紙に載っているスキャンダラスな内容を読んだドイツ人は、「ふーん、不倫してたんだね」とか「あら、奥さんと別れちゃったのね」という軽めの反応であることも少なくないです。そして、しつこいようですが「新しい恋を応援」する声もまた多いのです。なんだか日本だと信じられないですね。

ドイツ人の感覚だと、恋愛は「プライベートなこと」なので、公人の不倫が仕事に悪影響を及ぼす事はあまりありません。ドイツの一般的な感覚だと、たとえ婚姻関係にあっても「片方の気持ちがなくなれば、関係は終わり」という共通認識があるようです。さらにドイツ社会は「捨てられた側」に冷たい社会でして、「彼を/彼女を、繋ぎ止めておけなかったほうにも責任がある」という考えの人もいます。

出典: flickr/Sascha Kohlmann CC BY-SA 2.0

ドイツでは不倫が原因の離婚であっても、慰謝料は請求されません。ただ意外にも、紙切れ一枚で離婚ができる日本とは違い、ドイツの離婚は必ず裁判所を通さなければならず、ある一定の期間別居をしていないと離婚が認められないなど、ドイツの離婚の手続きは日本よりも複雑です。

こと「不倫」に関しては、ある種の「モラル」を追求する日本VS「個人の気持ち」を尊重するドイツ、といったところでしょうか。

出典: flickr/Dirk Vorderstraße CC BY 2.0

さて、配偶者に不倫された妻や夫に対してドイツの世間は冷たい、と書きましたが、「新しい人に走った彼/彼女のことは諦めなさい」と言う一方で、「あなたにも近いうちに絶対に合うパートナーができるよ!」と励ましてくれる人が多いのもまたドイツです。実際に中年や高齢になっても、新しいパートナーを見つける人は多いのです。

出典: flickr/Klaus Krumböck CC BY 2.0

もしかしたら、ドイツは日本と違い、離婚後も「共同親権」が主流なので、子供がいても離婚に踏み切る事ができるのかもしれません。日本の場合は、自分が離婚をしたくても、「子供のために」と離婚を思い留まる夫婦も少なくないようです。

出典: flickr/Phae CC BY-NC-ND 2.0

ちなみに離婚後のドイツの養育費の額は収入や子どもの年齢によって決まりますが、給料から天引きされるケースもあります。

子供がたくさんいる場合、養育費の金額がかなりの額になるので、結果的に結婚や子を持つ事にシビアになる男性も少なくありません。日本では離婚後に、「子供」にまつわる全ての義務から離れる男性が少なくありませんが、ドイツではその手の男性には容赦ないのです。

出典: flickr/Bankenverband Public Domain

それにしても元シュレーダー首相の例を見ても、結果的にドイツで何回も結婚や離婚を繰り返している人というのは、かなりリッチな男性だというオチでした(苦笑)

サンドラ・ヘフェリン

コラムニスト。ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフはナニジン?」、「ハーフといじめ問題」、「バイリンガル教育について」など、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作:サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作:サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ) など計11冊。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。