ドイツはすっかり秋模様……を通り越し、まるで冬のような日もある今日この頃。寒くて暗くて、おまけに長~い、憂鬱な季節がやってこようとしています。

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でも、たとえ外はマイナス気温でも、家のなかはぬくぬくと暖かいのが救い。ドイツにやってきたばかりのころは、外気をしっかりと遮断する分厚い壁や、ぴたりと閉まる二重窓、そして、各部屋に備え付けられた暖房、ハイツング(Heizung)にいたく感心したものです。

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私が現在住んでいるアパートでは、いわゆるセントラルヒーティングシステムが採用されています。地下にあるガスボイラーからの温水が床や壁の中に巡らされたパイプを通っていて、バスルームやキッチンも含め全部屋に設置されたハイツングから暖気がやってくる仕組み。ハイツングは触れるくらいの温度ですが(上に洗濯物をのせて乾かしたりもできます)、0から5段階のつまみの設定に応じて部屋はしっかりとあたたかくなります。

(暖房費を節約したいケチな人はつまみを限りなく0に近づけるため、寒々している家も珍しくありませんが、それはまた別の話……)

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音もにおいも、乾燥することもなく、もちろん灯油や電気も必要ないこの暖房設備、一度使ったらもうない生活には戻れません。

自分のことをずっと冷え性だと思っていた私ですが、このアパートに住むようになってからは、手足のつらい冷えは気付かないうちにすっかりなくなってしまいました。「私って、今までちゃんとあたたかい家に住んだことがなかったのか……」とちょっと自分がかわいそうになったものです。

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ところで、今年1月に日本に一時帰国した私と夫。冬の帰国は久しぶりで、こたえたのがそう、寒さでした。

滞在した横浜の実家は底冷えのする古い一戸建て。行くのに覚悟が必要なトイレ。氷のような床でつま先立ちをする脱衣所。起き抜けの寝室に広がる白い息……。ああ、関東の寒さってこうだったこうだったと家のなかでダウンを羽織る始末です(ドイツの自宅ではTシャツ1枚のこともあるのに!)。

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部屋の隅に置かれた石油ストーブのタンクに、母親がしゅぽしゅぽと灯油を補充する様子を見て、夫がひと言。

「……50年代ですか?」

たしかに、ドイツの我が家のあたたかさ、快適さに比べたら、差は歴然。「ドイツは寒いでしょ?」なんて聞かれると、「いや~、こっちのほうが寒いです」なんて冗談めいて答えたのでした。

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でも、この久しぶりの冬の帰国で、思い出したことがもうひとつありました。それはお風呂の気持ちよさ。冷えた体をじっくりと湯船であたため、ほこほこになったところで布団にもぐりこむときの幸せ感といったら!

ドイツ生活ですっかりシャワーに慣れてしまった私でしたが、帰国中はお風呂に入るのが毎晩の楽しみに。今夜はどの入浴剤を入れようかと迷うのもワクワク。

「お風呂って……いいね」

と、さんざん日本の家の寒さに文句を言っていた夫も、すっかりハマってしまった様子。ドイツのあたたかい住宅では、この楽しみはとても味わえません、よね? ああ、日本のお風呂が恋しいなあ!(負け惜しみではありません)

溝口シュテルツ真帆

編集者、エッセイスト。2014年よりミュンヘン在住。自著に『ドイツ夫は牛丼屋の夢を見る』(講談
社)。アンソロジー『うっとり、チョコレート』(河出書房新社)に参加。日独をつなぐ出版社、
ほろば社(Mahoroba Verlag)主催。『ドイツで楽しむ日本の家ごはん』が好評発売中!
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