「なくなった国」東ドイツの言葉。DDRは、いまも言葉の中に生きている! (前編)

前回はベルリン訛りについて書かせて頂きました!しかし「ベルリン」といっても、ベルリンの壁が崩壊する1989年まで40年もの間、2つの異なる街だったわけですから、東と西で言葉に違いはないのかな?と疑問が浮かんできました。

数少ない私の周りのベルリン生まれの友人たちに聞いてみたところ「東と西のベルリン訛りに違いはない」とのこと。とはいえ国が違ったので、商品名などは微妙に異なり、「あ、そう言う風に表現するなら、旧東ドイツ出身」とか、「この料理は東ドイツ側のメニューにしかない」というモノが未だに存在します。

今回は、いまもドイツで耳にする「旧東ドイツ(DDR)のドイツ語」(前編)です!

☆Plaste(東)Kunststoff(西)>人工樹脂・プラスチック
出典: 河内秀子

ベルリンに来たばかりの頃、蚤の市でDDRデザインの雑貨やオモチャなんかを買い集めていました。その中でよく耳にしたのが「プラステ」。

日本語の「プラスチック」に似た言葉だったので、何を指しているかはすぐわかりましたが、標準ドイツ語では「クンストストッフ」と言います。
化学物質の配合など詳しいことはわかりませんが、西側のプラスチックに比べて、心なしか手触りがざらっとしているような?写真はプラステ製のベルリンの熊お土産グッズです!

☆Kosmonaut(東)Astronaut(西)>宇宙飛行士
東ドイツ出身の宇宙飛行士ジーグムント・イェーン; 出典: Wikipedia CC BY-SA 3.0

映画「グッバイ、レーニン!」で、ダニエル・ブリュール演じる主役のアレックスが西ドイツ側の子どもたちと一緒に宇宙飛行士が出てくる番組を見ながら、「僕の国では、(宇宙飛行士は)コスモナウトと言うんだよ」「僕は違う国から来たんだ」と言うシーンがあり、とても印象的でした。youtubeにも、この名シーンのアップが!

ちなみに“ドイツ”人初の宇宙飛行士は、東ドイツ出身のジーグムント・イェーン(Sigmund Jähn)。DDRの子どもたちの憧れの存在だった彼は、今年80歳、いまもとってもお元気です!

☆ Kaufhalle(東)Supermarkt(西)>スーパーマーケット
出典: 河内秀子

たまに、スーパーマーケットのことを指して「カウフハレ」と言う人に遭遇します。DDRで、食品・雑貨、化粧品などを売る日用雑貨店だった「カウフハレ」。

稀に「Konsum コンズム」と言う人もいますが、こちらは生活協同組合が経営する食品店のチェーンでした。いまもドレスデンやライプチヒなどいくつかの旧東ドイツ側の都市には「コンズム」という名前のスーパーが存在しています。

東と西ドイツに限らず、スーパーやコンビニ、ファミリーレストランやファーストフードといった身近にあるものほど、地域色が出るものはないですよね!

☆geflügelte Jahresendfigur (東)Weihnachtsengel(西)>クリスマスの天使
出典: 河内秀子

ドイツで有名なものの一つに、クリスマスマーケットがあります!
旧東ドイツ地区の中でもドレスデンは、ドイツ最古のクリスマスマーケットが開催され、シュトレン祭りがあったりと、毎年とても盛り上がるのですが、DDR時代はどうだったんでしょうか?

ご存知のとおりクリスマスはキリスト教のお祭り。
しかし反宗教だった旧東独政府下では、クリスマスは祝いつつもキリスト教に通じるものはできるだけ避けなければいけない、、というジレンマがあったそうです。

例えば、クリスマス飾りとしてポピュラーな「天使・エンゲル」。天使はキリスト教的だからちょっとNGかも……というわけで、販売店がひねり出した苦肉の策が「geflügelte Jahresendfigur 羽の生えた年末の像」。なんじゃそりゃ?!

商品のパッケージなどではこの表記が見つかりますが、ちなみに、口頭では皆ふつうに「エンゲル」と言っていたそうです。
写真は、いまもクリスマス飾り、木工芸で有名な東部ドイツの小さな町ザイフェンの天使。冬場、この地方にいくと窓辺にはこの「羽の生えた年末の像」が並んでいるんですよ!

☆Jahresendmann(東)Weihnachtsmann(西)>サンタクロース
出典: 河内秀子

ちなみに、サンタクロースも、DDRでは年末の男。
東側では「ヤーレスエンドマン・年末の男」、西側では「ヴァイナハツマン・クリスマスの男」。年末の男……と言われると、忘年会で浮かれているおじちゃんみたいです(笑)

出典: 河内秀子

……しかし、「クリスマス」関連には、これだけ必死に「代用東ドイツ語」をあてているのに同じく宗教的な祝日であるイースターは、全くそういう言葉が出てこないんです。

もしかしたら、いろいろ考えたけど、適切な代用語が思いつかなかったのかもしれませんね。

東ドイツ、DDRにご興味持たれたかたは、イスクラさんと共同運営している
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東ドイツの言葉、中編・後編でまだまだ続きます!が、今回はこの辺で!

執筆者:河内秀子
東京都出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』や『料理通信』『ミセス』、『Young Germany』『Think the Earth』などでもベルリンやドイツの情報を発信させて頂いています。
Twitterで『#一日一独』ドイツの風景をほぼ毎日アップしています。いまの興味は『#何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題』。美味しくてフォークを刺してあるケーキを探し歩く毎日です。HPもご覧ください。