今やエナジードリンク市場、トップの座に君臨するレッドブルも、元はと言えばリポビタンDがすべての始まりだった。2017年、販売開始30年目を迎えたレッドブルをその起源リポDと比べてみた。
1. 販売開始は?

リポビタンDは1962年3月に販売を始めた。当時、高度経済成長期にあった日本においてすぐさま大ヒット商品となった。当時からリポDの売りは「タウリン」。
そのヒントは日本海軍特攻隊から得たものだった。戦時中、隊員の疲労回復を目的に全国のタコ加工場からタウリンを確保して隊員に飲ませていたのだ。
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一方、レッドブルの販売はリポD発売から四半世紀経た1987年。その5年前の1982年、ドイツのマインツに本拠地を置く歯磨き粉メーカー、ブレンダックス(Blendax) のマーケティング部社員だった当時38歳のオーストリア人、ディートリッヒ・マテシッツ(Dietrich Mateschitz)は、出張先の香港でリポビタンDの存在を知り、わずか数年の間に会社を起こし、レッドブルを製品化したのだ。

2. 海外進出は?

日本でリポビタンDが発売された翌年の1963年、大正製薬はまず台湾で海外販売を始めた。その後もアジアを中心に販路を広げてゆき、今現在、リポビタンDは欧米諸国も含めた世界16カ国で販売されている。タイでの販売は1965年から始まっていた。
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そのタイではリポビタンDをきっかけに様々なエナジードリンクが作られるようになった。その一つが1975年から販売されていた「Krating Daeng(クラティンデーン)」という名のリポD同様の成分を含んだドリンク剤だ。まさにタイ語で「赤い雄牛」、後に誕生するレッドブルのオリジナル商品だ。

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マテシッツ氏は、クラティンデーンブランドの保有者、ユーウィッタヤー一族と交渉し、マテシッツ氏49%対ユーウィッタヤー一族51%の株保有率で1985年、レッドブル社(Red Bull GmbH)をオーストリアのザルツブルクにある美しい湖の街、フシュル・アム・ゼーに設立。

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ドリンク剤としての成分はそのままに、クラティンデーンの味を西洋人好みにアレンジし、炭酸を加えたレッドブルが1987年に完成。レッドブル社の地元、オーストリアでの販売を皮切りに全世界へと販路を広げ、レッドブルは現在、リポビタンDの10倍を超える世界171カ国で売られている。

3. 富裕な経営者は?

マテシッツ氏がエナジードリンクに着目したそもそものきっかけは、日本の納税額番付だった。出張先の香港で雑誌「ニューズウィーク」に掲載されていた日本の高額納税者リストを目にしたマテシッツ氏は、首位の座にあるのが松下電器やトヨタ自動車などのグローバル企業の経営者ではなく、彼もまだ名を知らない大正製薬の会長、上原昭二氏だったことに驚き、エナジードリンク市場の可能性を予感したという。

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今やエナジードリンク市場トップシェアを誇るレッドブル社のマテシッツ氏は、2017年ファーブス世界長者番付・億万長者リストで86位。大正製薬の上原氏は1795位だ。マテシッツ氏の2016年時点での個人資産は134億ドル(約1.5兆円)にてオーストリアNr.1の富豪とのこと。対して、大正製薬名誉会長の上原昭二氏は同億万長者リストで1795位に位置している。

4. 生産拠点は?

日本国内で販売されているリポビタンDは、埼玉県羽生市と岡山県勝田郡で製造されている国産品。海外で販売されているリポビタンDはそれぞれの地域好みに少し味を変えて、海外用の生産拠点、台湾・マレーシア・フィリピン・ベトナム・上海で製造されている。

再開発計画・第3期工事、<羽生工場>完成, 出典: Taisho

一方、レッドブル社は独自の生産工場を持たないファブレス企業だ。本社があるザルツブルクのフシュル・アム・ゼーには工場や倉庫など製造に関わる施設は何もない。レッドブルの生産はすべてオーストリアのジュース会社、ラウフ社(Rauch Fruchtsäfte GmbH&CO OG)に任されているのだ。

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全世界で消費されるレッドブルは、ラウフ社が所有するオーストリア西端のファアアールベルク州(Vorarlberg)の工場と、オーストリアとの国境にあるスイスの街、ウィドナウ(Widnau SG)の工場で製造されているのだ。つまり、世界中でこれまでに消費された約620億缶のレッドブルすべてが、この2カ国で生産され、一缶一缶、充填され、「翼を授けられて」各国へ輸出されていったのだ。

5. 有効成分は?

リポビタンDとレッドブル、「指定医薬部外品」対「炭酸飲料」。成分においてはどんな違いがあるのだろうか。

タウリン
リポビタンDが滋養強壮をうたえるのもタウリンのおかげ。タウリンには肝臓機能をサポートする働きがある。1本(100mL)中、1000mgのタウリンを含有。
リポD同様、海外で販売されているレッドブルには、1缶(250mL)に1000mgのタウリンが含まれているが、日本版レッドブルには薬事法の関係でタウリンをアルギニン300mgに置き換えて販売している。アルギニンは疲労回復や成長ホルモンの促進を期待できるアミノ酸の一種だ。

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ナイアシン
糖質・脂質・タンパク質の代謝に作用し、皮膚や粘膜の健康維持を助ける水溶性のビタミンの一つ。

リポビタンではニコチン酸アミドがこれに当たり、20mg含有されている。一方、レッドブルには1缶に7.5mgのみ。

ビタミンB2
皮膚や各器官の粘膜を正常に保ち、細胞の再生を促す。健康な皮膚や髪の毛、爪などの生成に役立つ。

リポビタンには5mgのビタミンB2が、レッドブルには1缶にわずか0.225mgのみが含有。

ビタミンB6
たんぱく質の代謝を助け、成長を促進する。神経細胞の興奮を抑える作用もある。

リポビタンには5mgのビタミンB6が含まれている。レッドブルにも同様に1缶5mgの同成分が含有されている。

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カフェイン
中枢神経を興奮させて眠気を覚まし、集中力を高めるといった効果や利尿作用もあるカフェイン。このカフェイン目的でエナジードリンクを飲む人も多いのではないだろうか。リポビタンには50mgの無水カフェインが、レッドブルには1缶に80mgのカフェインが含まれている。ちなみにお茶やコーヒーでも同等のカフェインが摂取できる。

カロリー的に見ると、リポDは1本80kcal、レッドブルは1缶115kcalだ。有効成分で比較すると、やはり販売当初から「医薬品」として販売し、現在も「指定医薬部外品」であるリポビタンDの方がレッドブルより明らかにまさっていることがわかる。

いずれにしても、栄養ドリンクのパイオニア「リポビタンD」あってこその「レッドブル」。リポビタン誕生から半世紀以上が経ち、レッドブル誕生から30年目を迎えた今、さらなるエナジードリンク市場の発展を期待したい。