ベルギーとオランダの国境に近接し、地元では親しみを込めて„Öche (オヒェ)“と呼ばれるアーヘン。各研究機関での最先端技術開発と、産業界のイノベーションが相乗作用し融合するドイツ産業界の重要都市。歴史や美食の点でも注目すべき街のひとつだ。
出典: Wikipedia CC BY-SA 3.0
世界トップクラスの研究開発拠点

①未来を見据えるアーヘン工科大学

出典: RWTH Aachen/Peter Winandy

アーヘン工科大学(RWTH Aachen)は、質の高い機械工学・電気工学・経営工学などの研究で知られ、1870年の開校以降、すでに5名のノーベル賞受賞者を輩出している。「産業界への技術移転」をキーワードに産業界の将来を見据えて研究を続ける同大学は、9の学部、260の研究室があり、45,000人の学生のうち、9,000人が外国からやって来ている。

②ヨーロッパ最大規模の研究拠点

出典: © RWTH Aachen/Peter Winandy

アーヘン市が目下、注力しているのが「RWTHアーヘン キャンパス」という名の産学官連携プロジェクトだ。16の研究ネットワーク(クラスター)があり、320以上もの企業が参画している。研究施設はアーヘン市内全域におよび、街全体がヨーロッパ最大規模の研究拠点と化している。プロジェクトのコンセプトは、未来のために研究と産業が融合し、相互一体となって新技術の実用化を進めることだ。気候変動、デジタライズ、人口統計学などが代表的な研究テーマだ。

世界文化遺産に指定されたアーヘン大聖堂
出典: © NRW Tourismus via flickr

786年、カール大帝がこの地に“新たなるローマ”を建設。中心地には見上げるような高さの大聖堂が建てられた。936年以降は、約600年にわたって30人の神聖ローマ帝国の皇帝たちの戴冠式が執り行われた場所にもなった。また、カール大帝の遺骨が大聖堂内の特別な神殿に安置されていることでも知られ、1978年には、ドイツ初のユネスコの世界文化遺産に登録されている。

出典: © NRW Tourismus via flickr

この大聖堂内には、イエスの腰布、聖母の衣、幼子イエスの産着、洗礼者ヨハネの頭が納められているという「聖母の聖遺物箱」があり、キリスト教徒たちにとっても非常に重要な場所。7年ごとに聖遺物箱の錠が壊され中身が展示されるが、そのときには10万人を超える巡礼者がアーヘンを訪れる。次回の展示は2021年で、約10日間続けられる予定だ。

世界に輝くレープクーヘン、プリンテン
出典: Wikipedia CC BY-SA 3.0

「アーヘナー・プリンテン(Aachener Printen)」はドイツの伝統的な焼き菓子、レープクーヘンの一種だ。その最大手メーカーはランバーツ社。創業1688年の老舗で、19世紀にパン・菓子職人であったヘンリー・ランバーツ(Henry Lambertz)がプリンテンの大量生産に成功。ドイツ皇帝御用達の一品となった。1990年代以降は、レープクーヘン及びチョコレートメーカーとして世界市場を牽引するようになった。

出典: © Screenshot Youtube/Lambertz

1年に1度開かれる「ランバーツ・マンデー・ナイト(Lambertz Monday Night)」は、世界各国からセレブリティが集まるパーティーイベント。ランバーツ社の製品をデコレーションしたドレスに身を包んだトップモデルたちが登場するハイライトもユニークだ。

アーヘンは電気自動車の一大産地

ギュンター・シュー(Günther Schuh)教授率いるアーヘン工科大学の研究所WZL(Werkzeugmaschinenlabor)では、画期的な2台の電気自動車が開発されている。

出典: © streetscooter.eu

「ストリートスクーター(Streetscooter)」は、ドイツ国内で最も普及しつつある配送車だ。シュー教授とカンプカー(Kampker)教授によって会社が設立され、その後ドイツポスト(Deutsche Post AG)に売却。2016年には2,000台が、以降は年に1万台が製造されるまでになっている。長期的には、約7万台の全郵便配送車がこの電気自動車になる予定。現在の価格は1台32,000€だという。

出典: © e.go-mobile.de

一方の「イー・ゴー・ライフ(e.GO Life)」は、一般向けの小型電気自動車。航続距離140kmで、最高時速は90km。2018年のはじめから大量生産を予定しており、市街地向けの電気自動車として大きな成功をおさめると目されている。1台16,000€という低価格も魅力のひとつだ。

馬上スポーツの祭典「CHIO」
出典: © groundhopping-merseburg.de

毎年7月は、アーヘンで行われる「CHIO」に何十万人という人が詰めかける。CHIOはドイツ国内で唯一開催されている乗馬・馬車競技の世界トーナメントで、初開催は1924年に遡る。トーナメントは障害馬術、馬場馬術、総合馬術など計5種目から成り、個人と国別チームによって争われ勝者が決定する。

すべてを見通す電子顕微鏡「Pico」
出典: © GFE Gemeinschaftslabor für Elektronenmikroskopie

アーヘンの北東にあるユーリヒ研究センター(Forschungszentrum Jülich)に属する研究所「Ernst Ruska-Centrum (ER-C)」で、2012年に超高分解能電子顕微鏡が稼働。前述のアーヘン工科大学とユーリヒ研究センターの共同研究の結果、「Pico (Advanced Picometre Resolution Project)」と名付けられたその電子顕微鏡は、最高50ピコメートル(1ピコメートルは10億分の1ミリ)の観測が可能だという。この正確性は、マイクロチップや太陽電池の分野に大きく寄与している。

美味しいジャムの故郷
出典: © Zentis

ドイツのスーパーに行けば必ず見かけるのが、棚を埋め尽くす「ゼンティス(Zentis)」のジャムの瓶だ。ゼンティスは1893年にアーヘンで創業し、アメリカ、ハンガリー、ポーランド、ロシアにも生産拠点や子会社を設立。果実を加えたヨーグルトなどの乳製品や、パンやお菓子用のジャムなどを多く製造する、果実加工製品業界を牽引する存在だ。

ヨーロッパ最大の高層湿原「ホーエス・ベン」
出典: © Tourismus NRW via flickr

ベルギーとの国境に「ホーエス・ベン(Hohes Venn)」と呼ばれる氷河によって作られた広大な高層湿原地帯がある。そこでは多量の雨が降るために、自然のダムが15ヵ所存在。この一帯のいわば巨大な貯水池のような役目を果たしている。

出典: flickr/Julian Knutzen CC BY-NC-ND 2.0

この高層湿原はライン片岩山地(Rheinischen Schiefergebirge)及びアイフェル(Eifel)山地に属する。これらの高地の地下は現在もなお火山活動が盛ん。アイフェル国立公園にはありのままの自然が残されていて、1,450種の希少な動植物を観察することができる。

ノーベル物理学受賞者が開発したハードディスクメモリ
出典: © Peter Grünberg Institut (PGI) / fz-juelich.de

2007年にノーベル物理学賞を受賞したペーター・グリューンベルク(Peter Grünberg)は、32年間にわたってユーリヒ研究センターにて研究を続けた物理学者だ。1988年、グリューンベルクは巨大磁気抵抗効果 (GMR)を発見し、特許を取得。直後にユーリヒにあるIBMが名乗りを上げ、1997年にはコンピューターのハードディスクのためのGMRリーダーヘッドが発表された。彼の発見のおかげで、ギガバイトハードディスクやMP3プレーヤーの成功の礎が築かれた。

この地方の美食の代表格と言えば……

① モンシャウのマスタード

出典: © senfmuehle.de

100年を超える歴史のあるモンシャウ(Monschau)で製造されているSenfmühle(ゼンフミューレ)工房のマスタードは、水車で稼働していたころと同様、今日もなお伝統的な製法を守り続けている。母体は5世代続く家族企業で、提供するマスタードは計21種。アップル&西洋ワサビ、イングリッシュ・カレー、イチジク&ビールなど、ユニークなフレーバーの商品も多い。

出典: © senfmuehle.de

マスタードで美味しく調理することをモットーに掲げるレストラン『シュナブレウム(Schnabuleum)』も運営されていて、自社のマスタードを使ったクリエイティブな料理が提供されている。

② クリスマスレバーヴルスト

出典: © qualivita.it

前述のプリンテンに次いで有名なのが、アーヘンの保護製品にも指定されているクリスマスレバーヴルスト(Weihnachtsleberwurst)。コリアンダー、カルダモン、アニス、及び様々なナッツ類、コケモモ、ハチミツなど、クリスマス風の味わいが楽しめるレバーソーセージで、120年以上にわたり、可愛いリボンで飾り付けられて販売されている。