ノルトライン=ヴェストファーレン (NRW) 州の中央部に位置するルール地方。53の都市・自治区に約600万人が住むドイツ最大の産業密集地域で、これは約350万人の人口を抱える首都ベルリンをはるかに超える規模。ライン側の支流であるルール川 (Ruhr) に沿って発展した地域であることからルール地方という。

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以前は重工業を軸に栄えたが、現在は環境、化学、医学、自動車分野での革新的なプロダクトやサービス業で知られ、目下、産業転換の見本ともなっている学ぶべきポイントの多い地域だ。

「欧州グリーン首都」に選ばれたエッセン
Stadtpark Essen; 出典: © Johannes Kassenberg

ルール地方の主要都市で、ユネスコの世界遺産に登録された産業遺産があり、EU指定の欧州文化首都にも選ばれた都市といえば  − エッセン。今年、エッセンは欧州委員会によって毎年1都市のみ選出される「欧州グリーン首都」にも選ばれた。

エッセンの市内に広がる豊かな緑地、自然と生物学的多様性の調和、空気や水の美しさは随一。かつての石炭と鉄鋼の街から“緑の都市”への変換に成功した歴史は、ヨーロッパの各都市にとってもよい手本になっている。

ユネスコの世界遺産に登録された産業遺産
出典: © Jochen Tack/Stiftung Zollverein

エッセンには、「世界で最も美しい炭鉱」とも呼ばれる産業遺産がある。かつて、ヨーロッパ最大にして最新の炭鉱だったツォルフェライン炭鉱業遺産群(Zollverein)だ。とくにバウハウス様式で建てられ、1932年に稼働が始まった第12立抗 (Pit 12) の2本足の立坑櫓は必見だ。2001年にはユネスコの世界遺産に登録された。

世界展開する“縁の下の力持ち”な企業
・世界で環境に最も優しいポンプを製造するWilo
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ドルトムントに本社を置くWilo(ヴィロ)は、世界的に業界を牽引するポンプ製造会社。ヴィロ社の高性能ポンプは、省エネ設計で、非常に消費電力量が少ないことで名が知れており世界市場で高い注目を集めている。Wiloの環境保全への取り組みは製造工程まで及び、現在、“スマートファクトリー”を実現させるため、1億2000万ユーロを投資。そこでは製造から輸送まで、すべてのプロセスがデジタル化されるという。操業は2019年を予定。

・風力発電機の変速装置を製造するEickhoff
出典: © Eickhoff

1864年ボーフムでの操業以降、Eickhoff(アイクホフ)は鉱山の坑内や、吹きさらしの高地など、厳しい条件下での耐久性実証実験を行い、どんな環境でも耐えうる高品質な風力発電機作りを続けている。

ルール地方はピルスナーが美味しい!
・König-Brauerei
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ルール地方で最も有名なビール醸造所は、デュイスブルクのKönig-Brauerei(ケーニヒ醸造所)だ。親しみを込めてKöPi(ケピ) とも呼ばれているピルスナービール“König Pilsener” が作られている。

・Moritz Fiege
出典: © Moritz-Fiege.de

手作りビールが好きな方には、ボーフムにある小規模醸造所、Moritz Fiege(モーリッツ・フィーゲ)がおすすめ。伝統的なバネ栓式ビール瓶に入ったホップを豊富に使用したピルスナーを購入することができる。

未来志向の医療にも積極的
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筑波大学発ベンチャー企業、サイバーダイン社が開発したロボットスーツHAL®を医療機器として欧州で初めて治験したのがボーフム市内にあるベルクマンスハイル大学病院 (Bergmannsheil Universitätsklinikum) 。この臨床試験によって、医療機器ロボットスーツHAL®は、身体機能の改善に役立つことが認められ、欧州域内での販売に必要となる欧州医療機器指令基準適合マーク- CEマークを取得するに至った。現在、ボーフム市に設立されたサイバーダイン社の子会社によってロボットスーツHAL®の販売が欧州全域で展開されている。

ルール地方は近代美術の宝庫
・Museum Folkwang
出典: © plan-forward.com

Museum Folkwang(フォルクバンク美術館)は、ドイツでも名高い美術館の一つで、ルール地方で来館者数が最多の美術館だ。「公共の審美眼向上への貢献」を掲げて1902年に開館。2010年にはイギリス人建築家デイヴィッド・チッパーフィールドによって改築が行われた。ドイツ絵画とフランスの芸術により重点が置かれる、定評のある美術館だ。

・Ruhrmuseum
出典: © Ruhrmuseum/Facebook

Ruhrmuseum(ルール美術館)は、前述のツォルフェライン炭鉱業遺産群のなかに位置し、ルール地方の自然・文化についての常設展示が行われている。現在はモダンな都市となったルール地方の歴史を俯瞰できる貴重な場所だ。

ルール地方で生まれる最新テクノロジー
・物流最適化を開発するFraunhofer-Institut
ドローン; 出典: © Fraunhofer IML

フラウンホーファー研究機構 (Fraunhofer-Institut) はドイツ各地に研究施設を擁する欧州最大の応用研究機関。ドルトムントにある「フラウンホーファー研究機構 物流・ロジスティクス研究所」は最新の物流システムを開発しており、日通総研など、多くの日本企業とも協力し合っている。また、オンラインショッピングにおける物流の最適化なども意欲的に研究されている。

・Bottropのイノベーションシティ
省エネ住宅; 出典: © icruhr.de

イノベーションシティ・ルール (InnovationCity Ruhr) は、ボトロップ市が進めている環境未来都市転換プロジェクトだ。2020年までにCO2の排出量を半減させることを具体的な目標とし、そのための省エネや再生可能エネルギー源を利用した持続可能なまちづくりに取り組んでいる。このプロジェクトによって、産業の発展と環境未来は両立するものであり、人々のクオリティ・オブ・ライフはさらに向上することが示されるだろう。

ルール地方のカリーブルストを食べよう!
出典: © Ulli Weber

ドイツのソウルフードのひとつであるカリーブルスト。ルール地方の名店といえばヴァッテンシャイトにあるProfi-Grill。シェフはなんと、以前はミシュランの三ツ星店で働いていた人物だという。こちらのLink では気前よくカリーブルストの辛口ソースのレシピが公開中。シュニッツェルは揚げずにグリルされ、オリジナルソースとともに提供されるというのも気になるところ……。

エッセンから世界へ 変化の波を乗り越えた大企業
・ThyssenKrupp(ティッセンクルップ)
圧延鋼; 出典: © Thyssenkrupp.de

ThyssenKrupp(ティッセンクルップ)は、かつての製鉄企業から工業製品メーカー、及び原材料の貿易を行う企業へと変貌を遂げた。日本拠点もあり、積極的な事業展開を行っている。

・Evonik Industries(エボニック・インダストリーズ)
出典: © Evonik Industries

世界をリードする化学工業メーカーEvonik Industries(エボニック・インダストリーズ)は、旧Degussa(デグサ)社をもとに数度の吸収合併を経て生まれた大企業。日本法人のエボニックジャパン株式会社はすでに1969年に設立され、日本における特殊化学品の分野で大きな貢献を果たしている。

忘れてはならない、サッカーの国!
・ボルシア・ドルトムント
出典: © BVB/Facebook

香川真司の活躍するサッカーチーム、ボルシア・ドルトムントは忘れてはならない存在だ。ユニフォームの黄色一色になるスタジアムは圧観。ドイツ国内では、常に上位にランクインする人気のあるチームだ。

・スター・ノイアーを生んだ土地
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2016年9月からドイツ代表チームのキャプテンを務めるマヌエル・ノイアーは、ルール地方の町ゲルゼンキルヒェン出身。2011年まで地元のシャルケでプレーしていた。