ソーラー機による史上初の世界一周飛行。遂に最終目的地アブダビに着陸。偉業を讃える意味でも確認しておきたいソーラー・インパルス2の15のこと。

「太陽エネルギーの可能性を世界中に広く強く周知させたい」ー スイスのパイロットで冒険家でもあるベルトラン・ピカールとアンドレ・ボルシュベルグの想いは極めてシンプルながらも決して屈することのない熱いものだった。

出典: Solar Impulse via flickr

1. 2002年、プロジェクト始動

メインパートナーにソルベー、オメガ、シンドラー、ABB。そして、オフィシャルパートナーとしてグーグル、バイエル マテリアルサイエンス、スイス再保険会社、スイスコムなどの大手企業が名を連ね、このビッグプロジェクトは2002年に始動した。参加企業の投資額は合計100万ドル以上(約125億円)にものぼる。

2. 2人のリーダー兼パイロットが率いるチーム

創設者は2人。元スイス軍パイロットのアンドレ・ボルシュベルグ(1952年生まれ)と、精神科医でありながら世界で初めて気球世界一周を果たした冒険家のベルトラン・ピカール(1958年生まれ)である。飛行は二人のうち飛行区間ごとに交代で一人だけで行う。一人だけの孤独な飛行を影で支えているのは30名のエンジニア、25名の技工士、モナコでのミッションコントロールセンターで管理を担当している22名。総勢、約90名のスタッフが2人とともにミッションに携わっているのだ。

Solar Impulse 2 second flight
Bertrand Piccard, André Borschberg; 出典: Solar Impulse

3. 機体の素材

カーボンと軽量金属。車体本体重量は2,300キロ。トヨタの大型四輪駆動車、『ランドクルーザー』の重量より軽い。

Solar Impulse second aircraft fuselage and cockpit assembling
出典: Solar Impulse

4. 速度と大きさ

離陸時・飛行時の最小速度は時速26キロ。これはクロスバイクの速度に相当する。最高速度は時速90キロ。通常の旅客ジェット機より約10倍劣るスピードだ。また、全幅は72.30メートル。ジャンボジェットの愛称で知られる超大型旅客機『ボーイング747』より大きい。

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膨らませるハンガー; 出典: Solar Impulse
5. 動作原理

飛行持続時間は、理論上は無制限。日中、太陽が出ている限り持続的に飛行ができる。ソーラーバッテリーは、日中、太陽光から消費量より多いエネルギーを生産する。余剰エネルギーはバッテリーに蓄積されて夜間飛行に使用される。

出典: Solar Impulse via flickr

6. エネルギーの供給

ソーラー・インパルス2は、日中、太陽光をバッテリーに蓄えるために高度8500メートルで飛行する。旅客機とほぼ同じ高さの飛行だ。陽が落ちると、機体は1500メートルまでゆっくりと高度を下げる。低空飛行をし、エネルギーを節約するためだ。日が昇ると再びソーラー・インパルス2は8500メートルまで高度を上昇させ、エネルギーの生産と蓄積をはかる。

A close-up of the 4 electric motors of the HB-SIB aircraft
飛行機の電動機; 出典: Solar Impulse

7. エベレストのような機内

高度8500メートルの上空は、エベレストのように空気が薄い。通常の旅客機であれば、機中の酸素が失われないように設計が施されているが、インパルス2にはそのような施しがされていない。そこで、パイロットは飛行中、常時、酸素マスクを着用する必要がある。一日の飛行に大容量の酸素ボンベを6本必要とする。酸素マスクを着用していなければならない状態は、飲食時や排泄時にかなり不都合だという。

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André Borschbergと酸素マスク; 出典: Solar Impulse

8. 特別に開発された機内食

操縦士らの食事は、スイスのローザンヌにあるネスレ研究センターで5年間の研究を経て開発されたものだ。この特別食は、高いエネルギー含有量を持ちながらも、消化に負担がかからないものである。鶏肉は牛肉よりもこれらの条件を満たしている。また、食品は機中の過酷な温度変化にも耐える得るものでなければならない。

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André Borschberg; 出典: Solar Impulse

9. 一日あたりの食事回数

一日あたりの食事の回数は11回。その内、温かい食事は一回のみ。キノコのリゾット、ポテトグラタン、ライス、ダブレ(クスクスのサラダ)と鶏肉などが用意されている。朝食にはシリアル、プロテインシェイク、ヨーグルトなどを摂る。飲料は、一日約3.5リットルを摂取。その内2.5リットルは水、残りの1リットルはスポーツドリンクで水分補給。

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出典: Nestlé
10. 便座に早変わりする操縦席

機内はとても狭く、トイレに費やせるスペースがないため、操縦席が同時に便座にもなる設計になっている。座席の中央の一部を取り外し(写真参照)、シートがトイレの便座に早変わりする。排泄物は、生分解性プラスチック袋に入り、海に放下される。

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出典: Solar Impulse

11. 緊急時の対応

機内には、パラシュートと救命いかだが積載されている。救命いかだは水面との衝撃時に屋根が飛び出す仕組みになっている。緊急の場合、いずれかの方法でパイロットは自らの命の救出を図ることになる。

12. 睡眠のリズム

インパルスのパイロットはたった一人で連続飛行を行う。つまり、24時間体制で操縦と管理をしなければならない。そのため、睡眠は仮眠の連続である。約3時間、5分〜20分の睡眠を断続的に取る。それを一日に8回行って睡眠時間を確保する。座席シートは、リクライニング機能が付いておりベッドになる作りだ。

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出典: Solar Impulse

13. ヨガで健康を維持

24時間、たった一人で飛行に臨まなくてはならないインパルスのパイロットは、途中で立ち上がったり歩行することができない。そのため体調の維持・管理が非常に重要になる。パイロットのボルシュベルグは機内でヨガを行っているという。血栓症のリスクを回避するために、ヨガは必要不可欠であるらしい。

14. 危険性

日中生産した太陽光エネルギーを蓄積するバッテリーは、外部温度から影響を最小限に抑えるため、かなり強固に隔離されている。しかし、これは同時に、バッテリーが内部で熱を溜めてしまいオーバーヒートを起こすリスクも抱えていることになる。日本でもニュースになった名古屋への緊急着陸。公表はされていないが、バッテリーのオーバーヒートによる損傷だったとみる説がある。修理や改善のため、インパルスは2016年春までハワイに留まる予定だ。

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出典: Solar Impulse

15. :17,248個の太陽電池

機体には、17,248個の太陽電池ーが搭載されている。関係者でなくてもこのビッグプロジェクトを協賛することができる。ウェブサイトでは一枚200ドル(約25,000円)でその所有権を販売している。ソーラー・インパルス ウェブサイト

出典: Solar Impulse via flickr