ユーハイム夫妻の日本への想い バウムクーヘンは日本で進化する!?

バウムクーヘンはドイツで「ケーキの王様」と呼ばれる特別な伝統菓子。しかし、ドイツのお菓子屋さんで見かけることはあまりない。なぜかというと、バウムクーヘンを焼くのには、手間とコストがかかるから。本場ドイツのバウムクーヘンを食べてみたいと思っても、値段を見て思わず手を引っ込めてしまうほど高額だ。「日本ではこんなに高くないのに。。。」そう思った人の頭にあるのがユーハイムのバウムクーヘンなのではないだろうか。

ユーハイムの創始者は、ドイツの菓子職人カール・ヨーゼフ・ヴィルヘルム・ユーハイム(Karl Joseph Wilhelm Juchheim )。しかし、実は彼、本国ドイツで活躍した人物ではなかった。

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カール・ユーハイム; 出典: Wikipedia

彼はドイツ帝国の租借地、中国の青島に渡りドイツ菓子を作っていた。特にバウムクーヘンは評判だった。そのユーハイムが、中国から日本へやってきたのは、第一次世界大戦中に捕虜として連行されたからだった。

戦後、解放されたドイツ人捕虜たちが続々と帰国する中、ユーハイムは日本に留まった。青島に残してきた妻エリーゼ(Elise)と息子カールフランツ(Karl Franz)を日本へ呼び寄せ、1922年エリーゼの名を取り「E・ユーハイム」という店を横浜に開いた。店は大盛況となり、娘も生まれ、順調な生活を送っていた。しかし、1923年の関東大震災で横浜の店が焼失。その後、知人を頼って移り住んだ神戸で新しい店「Juchheim’s」をオープンした。

カールとエリーゼが二人三脚で作るバウムクーヘンは大人気となり、店の経営もすっかり安定する頃、戦争がまたユーハイム一家を翻弄する。第二次世界大戦が勃発し1945年の神戸大空襲で工場は焼け、終戦前夜にカールは息を引き取った。息子は戦死し娘も終戦前に亡くなった。そしてエリーゼは、戦争が終わるとドイツに強制送還されてしまうのだった。

「Juchheim’s」はこのまま消えてなくなってしまうかと思われたが、カールとエリーゼと共に働いていた職人たちの腕とドイツ菓子への想いは神戸にしっかりと根付いていた。戦争から戻った職人たちが神戸に店を開き「ユーハイム」を再開したのだ。のちにエリーゼは、ドイツから日本へ戻ると社長に就任し、1971年に神戸の地でその生涯を閉じるまで日本で暮らした。カール・ユーハイムと妻のエリーゼは芦屋市霊園に眠っている。

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カールとエリーゼ; 出典: juchheim.co.jp

日本で、バウムクーヘンをドイツ菓子の象徴にしたのは、他でもない「ユーハイム」だったのだ。

ユーハイムのバウムクーヘン; 出典: flickr/pelican CC BY-SA 2.0

「ユーハイム」は現在、日本中に多くの支店と子会社を構え、多くのデパ地下に出店している。1976年にはドイツのフランクフルトに逆上陸出店も果たした。最近では抹茶や黒豆入りの日本版バウムクーヘンも登場している。ここでご紹介しておきたいのは全国お取り寄せスイーツにランクインするこちらの人気商品。

ケーニヒスバウム50
ユーハイムが日本で初めて焼いたバウムクーヘンを再現したもの。焼いた職人の名前が入っている。発酵バターのしっとりした食感が人気の秘密。いろいろな切り方をして楽しめるのも満足度をアップさせる。

Baumkuchen aktuell
出典: juchheim.co.jp

こちらは、アッフェルバウム
りんごに見立てた赤いパッケージに入っているのは、丸ごとのりんごコンポートを包むように焼き上げた丸いバウムクーヘン。

Baumkuchen aktuell 2
出典: juchheim.co.jp

バウムクーヘンのほかにも「フランクフルタークランツ(Frankfurter Kranz)」、クッキー詰め合わせ「テーゲベック(Teegebäck)」、「アップルパイ(Apfelkuchen)」などがある。今でもユーハイムがこだわっているドイツ的な点を挙げてみよう。

ドイツ的その1: レシピ
ユーハイムの菓子は、現在も、ドイツのオリジナルのレシピを元に菓子職人たちによって丁寧に作られている。

ドイツ的その2: 菓子職人
ユーハイムの菓子職人たちは厳しい修行を積んでおり、ドイツの国家資格「マイスター」を取得した職人が多数在籍する。

ドイツ的その3: 創始者たちの言葉
カール・ユーハイムの言葉
「純正素材がおいしさの秘密(Exquisiter Geschmack durch feinste Zutaten)」
「一切れ一切れをマイスターの手で(Stück für Stück von Meisterhand)」
「革新が伝統を築く(Tradition durch Innovation)」

エリーゼ・ユーハイムの言葉
「お母さんの味、自然の味(Natürlicher Geschmack wie bei Muttern)」
「身体のためになるから美味しい(Wohlschmeckend weil gesund)」
「小さく、ゆっくり、着実に(3S(small, slow, steady))」