オーストリアの科学者達が、患者自らの脚の感覚を呼び起こす義足を発明。着用した患者らは、驚きと喜びで満ち溢れている

通常、義足を必要とするまでの処置が必要な場合、皮膚内部の奥深いところまで神経を切断する。なぜなら歩行や立ち上がる際、患者自身の体重で切断部分が義足に圧迫されて起こる激痛を緩和するためである。

Prothetik mit Fahrrad
出典: FH Linz (all rights reserved)

しかし、不可思議なことに、脚は切断されているにもかかわらず、脳はその変化を認識しない。そのために患者は、すでに失われている部位に痛みがあると感じ疼痛に苦しむ。いわゆる幻肢痛といわれるものである。

今回、オーストリアのインスブルック医科大学の外科医エヴァ·マリア·バウアーが率いる医療チームは、革新的な発想で患者たちを幻肢痛から解放し、さらには喪失部位の神経感覚までも呼び覚ますことに成功したのだ。

発想はシンプルだった。義足装着時の痛みを考慮し、これまで皮膚の奥深くまで切断されていた神経だが、大腿部と義足の接続部分付近にある外側に面する6つの神経は残す。その6つの神経はつま先まで通じる神経で、義足末端に備え付けたセンサーと接続される。

出典: FH Linz

人工装具の権威であるリンツ大学のフーベルト・エガー教授とその生徒たちは、その6つの神経に合致する6つのセンサーを開発。各振動子は、大腿部にある6神経の末端のいずれかを刺激するように配置されている。こうして大腿部に伝わってきた感覚は、脳に伝わる。まさに「感覚」を持つ義足なのである。

Fuehlende-Fussprothese
出典: FH Linz

実際にこの義足を着用したヴォルフガング・ランガー(54歳)は、この「感覚を持つ義足」で地面に触れた時、まるで本物の自分の脚のように感じたそうだ。さらに嬉しいことには、脳の錯覚によって引き起こされていた幻肢痛もなくなったという。

「一番の悩みは、消えることのない痛みでした。けれど今は自由に動き回ることができます。もう不自由はほとんどありません。次の目標は、仕事を見つけることですね」と、ランガーはその喜びを語っている。

Egger mit Patient
出典: FH Oberösterreich
 この「感覚を持つ義足」は、現段階では試作品の段階だ。センサーの振動ケーブルはスマートフォンに使用される部品から調達しコストを抑えるそうだ。現在、エガー教授は、義足の商品化のため協力企業を探している。一肢を5000ユーロ(約70万円)以下で製品化したい考えだという。一日も早く「感覚を持つ義足」が商品として日の目を見ることを期待したい。
Kletterwand mit Prothese
出典: FH Linz

義足でボルダリングに挑む患者

問い合わせ:Dr. Hubert Egger, Department für Medizintechnik, Fakultät für Gesundheit und Soziales, Linz, FH Oberösterreich, +43(0)50804-52191, prothetik@fh-linz.at